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さっきの話

ようやく一回目の休憩時間か、とワイは夜行バスを飛び出して、のこのことSAの喫煙所に足を運ぶが早いかいつも吸うてるマルボロブラックメンソールを咥えて火を点けたんや。冷たい空気とメンソールが混じってド冷たい主流煙を肺にいっぱい吸い込んだワイは、よく漫画とかでビール一気飲みした奴がやる「プハーッ!!」くらいの勢いで煙を吐き出したわけや。

 

いや〜この気温だと煙なのか白くなった息なのかわかんないのね、めっちゃ真っ白やんけとか思いながらぼんやり煙の行く末を目線で追って喫煙所の屋根の下から少しばかり外に出たワイはその瞬間別のもんに目を奪われてしもうたんや。ワイの頭上。まあものの見事に輝く星の数々。とりわけ目立ったんが真っ黒いビニールに鉛筆かなんかで穴開けて向こうにめっちゃ強い光源置いてます、みたいなすごい綺麗なオリオン座。例えが下手すぎる。

 

はえ〜すっごい……て思いながら灰を落としに一旦灰皿まで戻ったわけやが気が付いたらさっきまで無人だった喫煙所に茶髪に眼鏡の若い兄ちゃんがおったんや。で見てたら、その兄ちゃんも数十秒前の俺みたいにちょっと外出て真上を見ながら煙吐いとるわけや。そいつが戻ってきた時、思わず口に出してしもうたんやな。

 

「星めっちゃ綺麗ですよね」

 

冷静に考えたら見ず知らずの怪しげな男からそんなこと言われても「は……?」としかならんと思う。けどまあその兄ちゃんの心が綺麗だったんか星空が綺麗だったんかあるいはその両方か、その兄ちゃんは笑顔で

 

「都会じゃ見れないですよね」

 

て返してきたんや。

 

そっから先は大した話してない。休憩時間10分やし。お互いの名前すら知らんまま「ほな、」つって別れたんやが、いつか彼が綺麗な星空を見上げた時、深夜の喫煙所で突然話しかけてきた怪しげな眼鏡のことも一緒に想起させてもうたら申し訳ないなあ、とちょっと思う。